4月24日、ニュージーランドのグローサー貿易相は都内で記者会見し、TPP(環太平洋パートーナーシップ)協定をめぐる交渉では、全品目を関税撤廃の議論の対象にすべきだとの考えを示した。これは安倍晋三首相が主張する米や乳製品など5品目の“聖域化”をけん制する狙いであり、日本への圧力は日に日に高まっている。

「日本の国益は守る」と宣言し、TPP協定への交渉参加を表明した安倍首相。4月12日にはアメリカとの事前協議が合意に達し、目的は達成されていると胸を張っていたが、実際に中身を見てみると、相手の要求をほぼ丸のみという屈辱的なものに終わっている。

まず、自動車分野では【乗用車2.5%、トラック25%】というアメリカの関税が当面、維持されることが決まった。しかし、この“当面”というのがビックリするほど長い。

「日本政府が発表した合意文書には『TPP交渉における最も長い段階的な引き下げ期間によって撤廃され、かつ最大限に後ろ倒しされる』と明記されています。乗用車で5年超、トラックが10年超とみられていますが、それ以上になる可能性も」(全国紙記者)

自動車部門は日本の稼ぎ頭であり、TPP参加の最大のメリットとされていたところだ。

「例えば、トラックはアメリカ国内の新車販売台数の約半数を占め、しかも、その巨大市場をアメリカのメーカーが独占してきました。アメリカ政府にとっては、日本のコメと同様、関税を死守したい分野でした。日本はそれをあっさりと認めてしまったということ」(全国紙記者)

元レバノン特命全権大使で、著書に『外交力でアメリカを超える』などがある作家の天木直人氏もこう同意する。

「日本にとって、自動車分野でアメリカの要求を丸のみした形になったことは致命的。日本は農産物のうちコメ、麦、乳製品、牛肉・豚肉、甘味資源作物(砂糖の原材料)の重要5品目を関税撤廃の例外にするよう今後の交渉で求めなければならないのに、それを確保するための最大の交渉カードを“交渉入り前”に失ったのです」

さらに、政府は日本郵政グループのかんぽ生命保険の新商品販売を凍結するとの方針を発表。保険分野でも大幅な譲歩を強いられた。では、この事前協議で日本は何を得たというのか?

「何もない。ただアメリカに突きつけられた屈辱的な要求をのまされ続けただけです」(天木氏)

実際、日本政府が発表した合意文書を見ると、安倍首相が「守る」と約束した日本の農産物の関税については「日本は一定の農産品(コメ、牛肉など)、アメリカには一定の工業製品(自動車など)といった2国間のセンシティビティ(敏感な問題)があることを認識しつつ……」とあいまいな表現で触れられているだけ。

大見得を切って交渉参加を決めた安倍首相だが、交渉前からアメリカに大幅な譲歩を強いられ、ほかの国からも聖域化の撤回を求められる始末。もはや、農産物の“国益の死守”は風前の灯だ。

(取材・文/興山英雄)

■週刊プレイボーイ18・19特大合併号「絶望のTPP交渉 やっぱり日本は“聖域”を守れない!」より